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○佐藤五郞左衞門咄の事

附錄 雨夜燈 第18話 · 段落 1 · NDL 1078984 448コマ L

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前橋の城主酒井雅樂頭忠淸佐藤五郞左衞門直方を殊の外崇敬にて客人の遇なりき。或時五郞左衞門、井伊掃部頭の許に招請せられ、未だ掃部頭對面し給はざるうち、家老用人物語しける時、五郞左衞門申しけるは、大事と申すものは、勿論少しのわざにても傳授稽古と申すこと御座候て、師匠に便りて習ひ受け、其上を工夫を盡して、漸と合點參るものにて候に、日本にては至極大切の事に傳授もなく稽古もなく、自己の分別にて埒を明け候こと有㆑之候。各達御存じに候哉、といふ。家老ども、いや皆々不㆑存候。如何、と問ひければ、其時五郞左衞門、されば其事にて候。一國の仕置にて候。數萬の士民の一命にかゝり候大事にて、安危の至極にて候。夫故異國にては、聖人賢人の敎へおかれ候詞、萬世の鏡に成り候道を稽古いたし候に、今の君臣ともに此稽古なく、自己の分別にて埒を明られ候は、さても〱危き事の至極に候、と語りけり。