新太郞樣常々御意なされ候は、家中國中を能治めんとならば、威と恩との二つなるべし。威なくして恩ばかりなれば、あまやかしたる子の敎訓を聞かぬ如くにて、用に立つべからず。又威ばかりにて嚴しきを第一とせば、上むきに納得するとも、眞實になつきたるに非れば、是又散散の事なり。恩にて能なつけ、法度の少しも崩れざる如くに賞罰を行ふを威といふべし。恩信なければ威も無用の事なり。威なければ恩信も用に立たず。然れども畢竟の所は、能下の情を知る事大事なり。下の情を知らざれば、恩信も威も用に立つまじきぞ。兎にも角にも聖賢の敎を稽古なくては、此一事は知難し、と仰せありしとなり。