さて又子共どもよく〱きけ。此書付は後の世に汝共が御しうさまの御ゆらいをもしらず、大久保一名の御普代久敷をもしらず、大久保一名の御忠せつをもしらずして、御主さまへ御ぶほうかうあらんと思ひて、三でうの物の本にかきしるすなり。何れも大久保共ほどの御普代衆は數多候間、別の衆の事は是にはかきおくまじけれ共、ふでのついでにあら〱かきおくなり。各々のは定て其家々にてかきおかるべければ、我々は我が家の筋を詳しくかきおくなり。先御地行不被下とても、御主樣に御不足に思ひ申な、過去の定業なり。然とは云ども、地行をかならず取事は五つあれども、如此に心をもちて地行を望むべからず。又地行をゑとらざる事も五つあれども、是をばなを飢ゑて死するとも此心持をもつべきなり。第一に地行を取事、一には主に弓を引、別儀べつしんをしたる人は、地行をも取末も榮、孫子迄もさかると見えたり。二つにはあやかりをして人にわらはれたる者が、地行を取と見へたり。三つにはかうぎをよくして、御座敷の內にても立まわりのよき者が地行を取と見えたり。四には算勘のよくして、代官みなりの付たる人が地行を取と見へたり。五つにはゆくゑもなき他國人が地行をば取ると見へたり。然共地行をのぞみて夢々此心もつべからず。又は地行をゑとらざる事、第一には一普代の主にべつぎべつしんをせずして弓を引事なく、忠節忠功を成たる者は、かならず地行をばゑとらぬと見へたり、末もさからず。二つには武邊のしたる者は地行をばゑとらぬと見へたり。三つには公儀のなきぶてうほうなる者が地行をばゑとらぬと見へたり。四にはさんかんをもしらざる年の寄たる者が、地行をばゑとらざると見えたり。五つには普代久しき者が地行をばとらざると見へたれども、例へば地行はゑとらでかつゑ死ぬるとも、かならず〱夢々此心持を一つもすてずしてもつべし。電光朝露石火のごとくなる夢の世に、何と渡世を送ればとて、名にはかへべきか。人は一代名は末代なり。子共どもよくきけ。相國樣迄は一名の者どもをば御念比に被仰つるに、只今は何の御咎によりて大久保一名の者共は、かたみをすくめせうかを立てありき申事、さら〱不審晴れ不申。信光樣寄此方今當將軍樣迄御九代召つかわされ給ひしに、我等共が先祖御代々樣へ一度そむき奉り申たる事もなし。