然る間岡崎に有心を懸申御普代衆折をねらひ申せども、其身之力に不及して、大久保新八郞定而思ひ可㆑立と相待申處に、內前殿も內々左樣にも思召るゝ哉、次郞三郞殿を岡崎へ入申さん者は別之者ならず、大久保寄外は有間敷、さらば起請を書候ゑとて、七枚起請を伊賀の八幡の御前に而、廣忠を岡崎へ入申間敷と書せ申。新八郞宿へ歸りて、弟之甚四郞彌三郞二人之兄弟どもを呼寄、兄弟之者ども聞かとよ、うつけたる事を云まわる、伊賀之八幡之御前に而廣忠を岡崎へ入申間敷と、我に七枚起請を書たり。ほれ物にはあらずやとてから〱と笑けり。二人之兄弟承而主を本意させ申さんために社、御跡には留まりたり。其故起請之御罰とかうむりても地獄へ落る。是を悲しみ起請のおもてに負間敷とて、主に負ば七逆罪、とても咎をかうむる間、主を世に立申而思ひ置事無咎を請給ゑ、御身一人之咎にも有ば社、兄弟三人地獄に落迄兎角きしやうは千枚も書給ゑ、廣忠をば一度は岡崎ゑ入可㆑申と申處に、又新八郞にきしやうを書けとて書せければ、八幡之御前に而、七枚きしやうを書せけり。何度も書申さんとて書けり。又四五日有而も、廣忠を岡崎へ入奉ん者は、大久保寄外者兎角に有間敷候間、一度二度のきしやう者無㆓心元㆒おぼえ候ゑば、又きしやうを書給ゑとて、三度迄伊賀の八幡之御前に而、七枚きしやうを大久保新八郞に書せける。新八郞宿所に歸而又二人之兄弟供を喚而申けるは、二人ながら聞け、八幡之御前に而又きしやうを書せて有。是供には三度迄七枚きしやうを書せたり。合而二十一枚のきしやう成。百枚千枚も書せよ。書せば書べし。起請の御罰とかうむりて、今生にては白癩、黑癩の病を請、來世にては無間之住かともなれ、子供之母を牛裂にもせばせよ、忰を八つ串にも刺さばさせ、何どきしやうをかゝせ申すとも一度は廣忠に御本意をとげさせ申、岡崎ゑ入不㆑申ば置申間敷候。我等斗をふかく疑ひ申間、久敷延るならば何たる事をか申べし。兎角に𠆻べしと云而、廣忠へ內通を申上たり。然間もろゑ頓て內前殿働を被㆑成ける。其時新八郞も供を申ける。人先に立出而普代之主に矢を一つ參らせんと云ければ心得而立出る。新八郞はしり出而雜言を云て射懸けるを、其矢を取而廣忠之御目に懸申せば御喜成。次の働之時又新八郞はしり出、何ものごとくざふごんの云て罵しりければ、又心得而先度之矢文之御返事を持而出、新八郞普代之主に彎弓は殊外あがりたり。普代之主之矢を請而見よと云ければ、けさんのまくりて尻を出して待懸る。射たる矢を取而靫の底に入、又新八郞が一矢參るとて射懸けるを取而廣忠ゑまゐらせければ、取上而御覽ずれば、何月之何時分岡崎へ入申さんと云矢文成。惡雜言を不申ば、內前殿愈うたがはせ給はんとて、畏おそろしくは思へどもざふごんをば申成。歸りてうつぼの矢を取出して見ければ、岡崎を取而くれんと申事御滿足に思召ける。早急と被㆑仰候御事成。