天文年中大友義鑑の臣朽網下野親滿謀反して、高崎の城の二の丸を乘奪りて立籠りしに、佐伯惟常は大友家の旗下なるが、斯くと聞き杵築より馳せ來りぬ。佐伯平生鷹狩を好む。專狩の爲には非ずして軍立の爲なり。狩に出る時、ある日途中より使を走らせて士をよぶ。士に將たる者は騎馬の軍兵を引き率れて卽時に來る。步士又は弓の物主たれば、組の卒を引率れて駈け集る。是故不意の時と雖も騷ぐ事なし。半時計の間あれば、數日前より下知せしよりも陣列整ひて靜かなり。使に走らかす者は、壯なる者を三十人撰びて馬の前に打ちつれたり。常に駈走りに慣れて息永く足健にして、馬にも劣らぬ程なり。此時佐伯が士杉谷次郞太郞、同次郞三郞とて兄弟あり。相共に一番乘を志し、城の堞何れの方が上るに宜しからん、と目を配りけるに、堞の隅あり。爰に目を附け、直槍の柄を四五所繩にて足駐を結ひ、一同に攻掛る時、杉谷兄弟兼て心を附け置きし所に始より近づき居て、走り著と槍を立掛け、終に登り越えて一番に入りたり。