甲斐の忍びの者數十人、
信玄に叛く事有りて、山小屋に立籠る。
信玄謀にて手易く討取ばやと思ひ、殘り居ける忍びの者に、城中に忍び入るに、如何なるが入り難きや、と問るゝに、內の守り嚴しく、夜廻の聲繁く、其の體明はなるは怠りもまた料り易く候、といふ。
信玄今山小屋に忍び入らんは如何に、と問るゝに、彼者共旣に能其の理を知り、靜り反りて音もせず候へば、其便を得ず、と答ふ。
信玄其より山小屋に向つて陣し、守り甚だ嚴しく夜廻り隙なく呼らせたり。日數を經てやゝ怠り出來ぬる時、山小屋より夜討に出でけるを、素より謀りたる事なれば、伏兵を置きて討ちとられけり。