東照宮高天神の城を圍ませ給ひ、柵を附けて固く守らせらる。城中後詰を乞へども
勝賴出でず、粮盡きけり。
栗田刑部使をもて
幸若が舞を一曲所望し、是を今生の思ひ出にせん、と申しけるを、
東照宮聞し召し、優くも言ひけるよ、とて
幸若に高館を舞はせらる。
栗田が最愛の小姓
時田鶴千世と言ひし者に、絹組樣の物を持たせ出して
幸若に贈り與ふ。其の後落城の時、
時田討死しけるを首を取りたれ共、女の首なるべしと人々疑へり。
東照宮聞し召され、眼を開き見よ。女ならば白眼なるべし、と仰せ有りければ、開いて見るに黑眼あり。又
幸若忠四郞も高館を舞ひける時見知りたりければ、
時田が首に定りけり。