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○明智光秀信長公を弑する事

卷之五 第13話 · 段落 1 · NDL 1078984 105コマ R

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明智日向守光秀信長を弑せばやと思ふ事久し。天正十年六月朔日の夜、明智左馬助秀俊を寢所に呼び入れ、側の人を退け、一大事の有るなり。蚊屋の中に入れ、と言ふ。秀俊頭を蚊屋の中に指し入れて、何事にて候、といふ。光秀、汝が首を得させよ、と言へば、秀俊聞て、一人のみにて候か、と問ふ。光秀、三人の命を貰ひ、猶足ざる故なり、と言ふ。秀俊、いと易き事にて候。大事ことよく成るべし、と言へば、光秀、如何に知たるや、と問ふに、事新しき仰と日比の恨み思ひ合せて候、と言へば、光秀、今信長を討たんと思ふなり。汝を偏に賴み思ふぞよ。先汝に語らんと思ひしに、中中諫め爭ふべし。汝力を合せずば志遂げ難からん。從はずば汝を斬らんと思ひし、とて盃を出す。秀俊、先臣一人に語り給ふならば諫め申すべし。早や外にも語りたまはんには駟も不㆑及と申す事の候。泄れ聞えて臍を嚙むとも益なし。疾打立ち給へ、とて夜半計に俄に軍兵を押出し、明れば二日の曙に、信長の宿せられし本能寺を取圍む。森蘭丸長定、何事ぞ物騷がしき、とて白き帷子の上に、淺黃鹿子の小袖を羽折り立ち出で見るに、壁の外に水色の旗見ゆる。信長、敵は誰、と問はるゝに、蘭丸、明智にて候、と申しも果てぬに、箕浦大藏、古川九兵衞、天野源右衞門等大庭に亂れ入り、信長白き一重物を著、弓持ちて射られしに弦切れたり。地臙脂の帷子著たる二十七八歲許の女房、十文字の鎗を持ち來りけるを、信長押取り、暫時防がれしが內につと入りて、障子を引き立てたれ共、燭臺の未殘りし火に、信長の影映りたるを見て、天野鎗を取り伸べ刺し通す。蘭丸弟の坊丸十七歲、力丸十六歲なりしが、切つて出で討死しける隙に、內より火をかけ灰燼となりたり。