東照宮長久手の軍に勝たせ給ひ、
勢州蟹江の城前田與十郞を御攻めあらん、とて打向はせ給ふ所に、加勢多く馳入りけるを御覽じて、敵如何程も城中へ入れよ、と仰せられしを、
酒井左衞門尉忠次承りて、何とて押留給はぬぞや、と申す。
東照宮、如何思ふぞ、と御尋ね有りしかば、
忠次、城は堅固なり。多勢籠りなば爭か攻め落すべき。如何なる御心か候、と申すを聞し召し、大將謀を言ふやうや有る、と仰せられけるが、其後援兵の乘來りける船を追ひ拂はせ、粮道を絕せ給へば、粮忽乏しく成りて城を渡し降參しけり。
東照宮四十二歲の御時なりとかや。