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○稻葉一徹罪人を免さるゝ事

卷之八 第6話 · 段落 1 · NDL 1078984 149コマ R

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稻葉伊豫守一徹下人罪有りて死罪に行ふ時、聲を上げて泣く。命惜きや、と云へば、彼罪人、否々命を惜みて泣くに非ず。命あらば一太刀恨む可きに、斯成り果つる事の口惜くて泣くなり、と言ふを人々、憎き奴哉。疾う〱斬棄てよ、と犇めくを、伊豫守聞きて、夫助けよ、とて繩を解かせ、如何にもして我に一太刀打てよ、とて追放ちければ、忝なき由再三言ひて立ち去りけり。其後年經て一徹病重くなりし時、彼下人來りて、力を盡せしに本意を遂げず、とて又泣く。頓て一徹死て葬の後、彼下人一徹の墓に詣でて、吾今日迄存命へたるは、君を一太刀恨み申すべしと申せしが故なり。君隱れさせ給ひしに生きて居たらんには、刑死に及びて泣きしは、命惜きに泣きたるなりと人の申さん事恥しく候、とて腹搔き切つて死しけり。是を以て見るに、戰國の時上の人下の人、其情の太平無爲の化に浴したる時の人に異るを思ひ知る可きなり。