明智光秀が士
野々口彥助、
山中鹿之介に逢ひて功名せん事を問ふ。
鹿之介、物前には必ず目の明かぬものなり、能心得られよ、といふ。
彥助させる事とも思はず。其後何れの戰にや、川際に
野々口打出でたる處に、朝霧棚引きて物色見え分かず。時に
山中が敎へし事を思ひ出し、手綱を控へ、爰にて目が見えぬと言ひしは吾後れたるならん、と目を塞ぎ心を靜めて目を開きたるに、川の半に物具したる武者大差物を指して只一騎渡り來るを見附けて、心も爽に目も明に成りたれば、押並べて引組んで落ち首を取りたり。後に
彥助、是も我眞實の功名には非じ。彼敵大差物に身の疲れて輙く我に組敷かれたるならん。彼敵も物前に目が見えざりつらん、と語りき。