谷太郞右衞門は武功の士にて、黑田家に客の會釋にて招き置かれけり。谷が曰く、軍の場にて先敵より味方に氣を附くべし。一人先に進み出で踏み堪ゆる處に、跡より二人三人行重らば、始出でたる者を強と知るべし。其處へ行く可からず。吾は又別の所に獨踏出して堪へ居るべき志せよ。暫くすれば又其處へ味方續くぞかし。又日比心安き人の我が主君に寵愛せらるゝとも、軍場にて其人の側に寄るべからず。必ず獨立の心得すべし。又士は弓鐵炮の上手と言はるゝ事好む事に非ず。敵を打立てたき時か、或は城へ射込みたき事の有らんに、足輕は進み難き故に、人を指して命の有らん時、射當てざれば面目なし。危き場は敵も堅く守る故に、多くは犬死する事有り、といへり。