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○安藤直次先見竝本多正信遺言の事

卷之十八 第19話 · 段落 2 · NDL 1078984 291コマ R

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安藤帶刀直次物語の時、本多上野介正純は家亡ぶべきなり、と云ひしに、程無く本多に祿を賜はりけり。人々直次に、云々言はれしに如何に、と問ふ。直次聞きて、後を見られよ、と云ふ。又下野の宇都宮二十萬石を賜はる。人々又直次に、我等承り候所は苦しうも候はず。再三斯る事な言はれそ、といふ。直次打笑ひ、正純家亡びん事近きに有り、といふ。軈て正純國を召放たれしかば、人々又直次に、神智有るが如くに候。如何なる故にや、と問ふ。直次、さればとよ。台德院殿關ヶ原の軍の時、木曾路にて遲留の有りしを、正紳1、是皆父正信が仕業に候。死罪に行はれなば嗣君の過無き事を人存ずべき由申せしを、台德院殿、我爲に斯くまで云ひつると仰せられし由正紳2聞きて、己が功と思へり。父を死罪にといへる三千の刑、不孝に勝る事や候。此家の亡ぶべき理なり。まして忠を君に致すは誇るべき事にあらず。正純の亡ぶるいと遲かりき、とぞ言はれける。
  1. 誤植 — 底本「正紳」。振り仮名「まさずみ」から「正純」の誤植か。
  2. 誤植 — 底本「正紳」。「正純」の誤植か。
正信に三萬石の祿地增し賜はりし時、臣は元鷹師にて候を斯樣に取立てられ候へば、只今の祿分に過ぎたり。必ず天の冥加に盡き申すべし、と固辭せしが、其後子の上野介に、我無からん後汝に祿を增し給はりなば、三萬石は我に賜はりたれば辭すべからず。それより增賜はりなば必ず固辭すべし。祿の身に過ぐるは禍なり、と遺言せられしが、正純父の敎に背き、遂に國亡びたりといへり。