直孝或時
林道春に物語して、
樊噲が勇氣逞しきと聞く。されども弓箭取の珍しき事にもあらず。我とても
噲が下に立つべからず、と言はれしに、
道春、
噲は誠に穢多の子にて筋目も勝り給へり。されども爰に一つの故の候。戰に臨みて矢石の中に先駈するのみを勇氣とは言ふべからず。是は匹夫の事なり。
噲が顏を犯して
高祖を諫め申せし事有り。足下には如何候べき。廣言を吐き給ふともよく〱自ら省られよ。
噲に及ばぬ事の有るべき、といへば、
直孝恥づる色あり。是は其比
大猷院殿御病氣とて、大名に相見なかりし故に斯くいはれしとかや。世に
道春一生の格言とせり。