常山紀談本文データベース

目次 › 卷之十八 › e400

○不破彥三武備の事

卷之十八 第28話 · 段落 1 · NDL 1078984 295コマ L

人物地名家(氏)官職日付索引へ

加賀中納言利常の士不破彥三、四千石の祿を受けて武名を知られたり。其子も同じく彥三といふ。性質愚鈍に見えて常に怠り勝なる事多し。是を諫むる人有りて、時節といふ事有り、といふ。悅び入り候、と言ひながら聽用ふる驗も見えざれば、又諫めたり。其時不破嘲笑ひ、才覺有る御身五百石、我愚なれども四千石、さのみな誹られ候ひそ、と言へば、色を變じて、人の勝る劣る祿の多少に依るべきや。何とてさ程理の不通なるぞ、といふ。不破、夫は我も知りぬ。今の詞は戲なり。亡父常に我を誡めて、小賢しき利根だてなる事努々すべからず。人の心に入らんとて、かりそめにも諛ふ事有るべからず。唯守るべきは義の一筋なり。汝武勇の身なり。士の義を忘れざれ、と申し置きたりしに違はんかと、日夜是を勤むるの外他事なし。衣食の美を好まず、從者と艱難を同じくせり。日本第一の大家なる加州の士中、我と祿同じき者多し。比べ見られよ。人馬のすくやかなる、武具の揃整ひたる、我に勝る者有りとも覺えず。又利に賴りたる事や爲したる。詔ひたる1事や候。僞を申したる事や候。平生日々身に省みて、弓箭の家に生れし職を忽にせず。御身は亡父と親しき人なりし故、斯く諫め給る事も忝く悅び存ずるなり。されども正しき道に敎へ給はるべきに、只時を見て世に從へとや。實の本意には非ざるべし。さらば言に從はずして本意に從はんは如何候らん、と答ふれば、諫めし人大に心服したりけり。
  1. 誤植 — 底本「詔」。振り仮名「へつら」から「諂」の誤植か(287ページ左の箇所と同じ)。