靑蓮院の宮にや、幼き宮に中院內府通茂公後見たりしに、常に碁、雙六を制せられけり。或時公參られしに、將棋の盤の有りしを見て、家司坊官を招き、兼て申せしに斯る物を何とて置きたるぞ。はしたなき業は素より惡しけれども、假令有りても、年の長じて心附の有りて止む事もあるなり。是等の類はさしも惡事にあらざる故其事に慣れ、空しく月日を過し、學問の志怠るものなれば、第一の惡き物にこそあれ、とて退出せられけり。又或時其宮に參る人尺八の名管を持來れり。重器なりとて人々玩びける時、公參りて、是は誰が業ぞ。斯樣の物を、とて柱に打ちあてて碎かれけり。彼の主の甚だ重器と思へるに、斯く許になして如何にせん、といひけるに、其の主來り事の由を聞きて、誰某が持ちたると內府の聞し召されん事恐ろしく候に、それと知られ申さぬは大なる幸に候、と言ひけるとぞ。