廣田圖書は
水野勝成の士にて、
大坂五月六日の軍に功有りしかば、明日は
殿の馬前にて相働かん、といへば、
勝成悅ばる。
明石掃部が陣を打破る時、
廣田鐵炮に玉藥を込み、一放と思ひて打つたるに、立消しければ、鐵炮を投捨てて鎗を取り、
簗瀨又右衞門といふ敵に渡合せ突伏せられしを、
勝成走寄り、
簗瀨を討取られけり。後に鐵炮を見しに、火蓋を切らで有りしとなり。
廣田人に語りて、事の急なるに臨みては、思ひの外に慌つるものなり。我旣に先駈殿數多して自負せしかば、
殿の前にて鎗脇を打たんと思設けしに、斯く狼狽へぬ。天晴すべきと工みたる事の斯くの如くなれば、まして不意の事をや。能く思慮すべき事ぞ、と語りけり。