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○大久保家の婢女主の仇を擊ちし事

卷之二十四 第6話 · 段落 1 · NDL 1078984 373コマ R

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大久保長門守一本松平周防守に作る敎寬の內所に奉公せし女中老、或時心得過ちし事有りしを、女の年寄大に怒り罵りて打擲に及びぬ。中老、親にも叩かれし事は無きものを、と獨言して部屋に歸り、文書きて下女に持せ、親の許に遣りぬ。二人の女房、一人は殘りなん、といふを、大事の事いひ遣る文なり、とておして二人とも出しぬ。道にて、怪しき事よ。常に二人一度に出されし事も覺えず、顏色も只ならず有りし、とて文を披き見るに、云々の子細にて自害するなり、と書き載せたり。さてこそ有るべけれ、とて、一人のはしたものには、疾く行かれよ。我は歸りて押止むべし、とて急ぎ歸りて見るに、早自害して有りしかば、夜の物打懸け小脇差の血を拭ひ、我懷に差して、さあらぬ體にて年寄の部屋に行き、語り申度事の候。只今部屋に來られよ、と言ひしに、程無く行くべし、と言ひければ、歸りては又行き數度に及びしかば、年寄來りて夜の物を上ぐれば、朱に染みて中老は死してあり。其時女房、是は今日の事にて、斯は自害に及びたるなり。主の仇よ、と言ひも敢ず小脇差を拔いて刺殺しけり。兩人を殺したるならんと捕へて糺し問はるゝに、懷より文を取出し、證據はこれにて候、と始終を詳に言ひ述べて、主の仇をば討留めつ、思ひ置く事も無く候、とて騷ぐ色もなし。長門守女中を殘らず並べて、彼中老の下女の事如何思ふにや、と尋ねらるゝに、忠義といひけなげなる事と言ひ、驚き入りたる由口を揃へて言ひければ、さらば如何せん、各存ずる旨を申候へ、となりしかば、いかで存じ寄りたる事の候べき、と申す。さらば此度の次第譽むるに詞も無しと言ふべきなり。年寄の死して事も缺けぬれば、則ち年寄に取立てて然るべからん、とて呼出して賞せられけるとぞ。