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○林田左文劍術妙手の事竝馬爪源五右衞門先見の事

卷之二十四 第7話 · 段落 1 · NDL 1078984 373コマ L

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松平筑前守忠之の士に林田左文といへるは、戶田流劍術の妙を得たり。足輕の卒二十人預り居たりしに、或時足輕六人人を殺して出奔す。左文は折節馬に乘りて有りしが、告來るを聞き則ち馬にて追附けたり。足輕之を見て、立向ひ追附かれたりとは他國に參りて申すまじ。之より歸られ候て然るべからん、といふ。六人、敵對せば容易く切勝つべし。今日迄頭たる者なれば切るまじいとの心なるべし。林田靜に馬より下り、六人同じく人を殺したれ共、必ず其罪の中輕重有るべし。さらば殘らず罪にすべしとも思はれず。我此處に來るは其是非を糺し明にせんとなり、とて步み寄る處を、一人、謀られじ、と言うて刀を抽いて懸る。林田刀の柄に手をも懸けず。足をも動さず。卒爾なり過すな、と言ひて間近くなる時、無分別者かな、といひいひ刀を抽くや否や手の下に斬り倒し、皆靜りて能聞け。敵せし故斬りたるぞ。敵せずば何とて切らんや、といふを、又一人斬つて懸れば、愚なる者共哉、死狂ひをするか、とて態と後退りにしざる。蹈込む處を飛違へ一太刀に斬伏せたり。皆氣を寬め一度に斬懸らせじが爲に斯して二人斬倒しつ。殘る三人ばかりは屑かはと思ひて、又一人斬伏せ、一人は手負せ一人は蹴倒し、手負せたる者と蹴倒したる者とは、其帶を以て縛り馬に打乘せ、先に立てて歸りたり。これ程の者なれば筑前一國の士多く林田が劍術の門人なり。馬爪源五右衞門は、鐵炮百發百中の妙を究めたる者にて、武藝を好みしかども、林田が劍術を學ばず。其故を問へども打笑ひて答へず。林田後咎有りて死罪に行はれけり。馬爪親しき友に、林田は姦邪なり。何事を仕出さんも計難しと思ひたりき。劍術を學ばん事は我も好み望む處なりと雖も、已に師弟となりて後難に臨みて、坐ながら見ては有るべからず。其姦邪に黨せば士の道に背くべし。兼てより交を結ばざるに如じと思ひたりしが、愚者も千慮の一得なり、とぞ語りける。