然る處に阿部之大藏惣領之彌七郞を喚而申けるは、何とやらん世間之騷々敷に付而、我等も別心を𢦰樣に沙汰をすると聞、我君之御恩ふかくかうむり、今人と成し我等ぞかし、此御恩を何としてかほうぜん哉。然ども此御恩は今生に而ほうずる事中々成難と、寐ても寤めても是を社思ひ暮申せしに、か樣に人に沙汰を致さるゝも、天道之つきはてたる事成、逆心之思ひ寄ず、若我左樣成儀もあらば、君之御ばつと蒙りて人も人とは云ずして、後には乞食をすべし。日本は神國なれば、諸神諸佛もなどか我を安穩に而置られ間敷候べし。何とて此君之御恩を讓申さん哉。哀纒綱をも懸させられても、水火之責に而も御尋あらば、申披きても果て度は存ずれども、物をもゆはせ給はで、御成敗も有ならば、よみじのさはりとも可成に、人聲高く憂世さうざう敷も有ならば、我等を御せいばい有と心得而、汝等者何方へも取籠り候へ而、我等が親は逆心之儀者夢々心に無㆓御座㆒候。此中も憂世に而其沙汰を仕とは、內々承及申つれども、夢々左樣成儀ども者不㆑存候と、又は仰出しも無御座候へば、此方寄申上候へば、却而あやまり有に似たりと存知、又は其證跡少成供似る儀有間敷、仰出しも御座候時可㆓申上㆒と存知候而罷在、御普代久敷召つかはされ申耳成、賸君之御蔭をもつて人と罷成、此御恩を忘て御謀叛申ならば、日本に諸神もましまさば、天命よかる間敷、此上にても七逆罪をかうむりて、無間の棲をいたさんに、何とて君に弓を彎申、御謀叛を申上候はん哉。夢々父子ともに不存候由を申上、其故尋常に腹切申せと申きかせ候ゑば、親の仰をもそむき、御主に敵を申上げ、七逆五逆の咎を請申す事、日本一の阿房彌七郞めとは此事成。