然る所に今度相國樣の御旗奉行之衆うろ〱としたるを聞召被成候哉、小栗又一郞と大久保彥左衞門が罷出て有けるに、御座の間よりひろ間へ成せ給ひしが、彥左衞門を御覽ぜられて、汝は旗に付而來りたるかと御意の候へば、彥左衞門手を付いてうしろを見ければ、汝が事にて有と御意なれば、我等は御鑓に付奉り申と申上ければ、汝は旗にて可有と御意なれども、いや〱御鑓に付奉り申すとまた申上ければ、重而又汝は旗にて可有と、あららかなる御こゑを被成而御意の有りけれ共、兎角御鑓に付奉りて參上申由申上ければ、其時したらば旗には誰が付たるぞと御意の時、ほさか金右衞門と小田が付奉りて參たる由申上ければ、何小田々々と三度迄御意なれども、三太夫をわすれける處に、小栗又一郞が申上けるは、せう田三太夫と申ける。其時四方を御らんじけれ共御旗ぶぎやうの衆一人もあらざれば、御廣間へ御座被成候つるが立歸らせ給ひて、御目を見ひらかせ給ひて、五日の日淀にとまらんとは誰がいふつると、あら〱成御聲にて三度迄被仰候へ共御返事申上る人なし。はじめに某に御あらため被成候間、某が事にもやと奉存、彥左衞門申上げ申は、よどに御とまりの儀は誰と人を奉㆑指に及不申、上下共に左樣に不申候人は、一人も無御座と申上ければ、重ての御諚に、我がとまらんといわざるに、とまらんと云やつばらめはたくらため迄と御諚被成而御ひろ間へならせけり。誰申ともなく申つると申上たらば、誰が云つると御意被成而云くちを御せり被付可申が、上下共不申候人一人も無御座候と言上申によりて、彥左衞門はされ共せり被付不申。