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○上杉謙信鹽を甲斐に送る事

卷之一 第20話 · 段落 1 · NDL 1078984 35コマ R · 異本による補遺

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武田信玄の領國は甲信二箇國にして、孰れも海に濱らざれば、鹽を自國に取る事能はずして、遠く東海北條の領國に仰ぐ事なり。氏眞北條氏康と謀りて、陰に其の鹽を閉ぢて甲信に送る事を禁めたりける程に、甲信兩國の人民は固より兵士も亦大に困しみ、一種の兵粮攻に異らざりける。上杉謙信之を聞き、信玄に書を寄せて云ひけるやう、聞く、氏康氏眞君を困むるに鹽を以てすと、是れ不勇不義の極みなり。我公と爭ふ所は、弓箭にありて米鹽に非ず。請ふ今より以往鹽を我國に取られ候へ。多寡唯命の儘なり、と軈て賣人に命じ、價を平にして之を給しける。