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○坂部岡江雪免さるゝ事

卷之九 第12話 · 段落 1 · NDL 1078984 165コマ L

人物地名家(氏)官職日付索引へ

北條滅亡の後、秀吉坂部岡江雪齋に、汝先年北條の使として上京し、約せし所忽背きて名胡桃の城を取る事、氏直の姦計にや。又汝が詐なるか、と責問はるゝに、直に申さん、と答へしかば、秀吉大に怒り、手枷足枷を並べ江雪を呼び出し、刀を奪ひ取り、左右の手を引張り庭上に引据ゑて後、秀吉罵りて曰く、汝が約せし處に背く事誠に憎むに餘り有り。且日本國の兵を動かし主君の國を滅せし事汝に於て快きや、と譴めらるゝに、江雪色も變ぜず。氏直更に約に背くの心無く候。邊鄙の士愚にて名胡桃を取り、終に弓箭に及びて北條の家亡びぬる事、江雪が思慮如何とも爲べき樣の候はず。誠に家の亡ぶべき運命にや候らん。然れども日本國の兵を引受くる事北條家の面目なり。此外申すべき事無し。疾く首を刎ねられ候へ、と言ふ。秀吉顏色打解けて、汝は京に引上せ磔に懸けんと思ひしに、大言を吐きて主君を辱めず。大丈夫と言ふべし。命を助けん吾に仕へよ、とて許されけり。坂部岡を改めて岡と稱しけるは此時よりの事なり。