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○林半介殿の事

卷之十三 第15話 · 段落 1 · NDL 1078984 222コマ L

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林半介は美濃安八郡靑柳村の百姓なりしが、石田に仕へて祿七百石使番たり。石田兵を起すの時、佐和山の城中に軍兵を集め、書院にて饗禮を行ひ、吾今斯る一大事を思ひ立ち、運を天命に任すと雖も、汝達が武勇を偏に賴む處なり。其旨を存して軍忠有らば、賞は功に依るべし。其約束の印とて酒盃を座の中央に出しける時、林遙の末席より進み出でて、軍に臨みて一番は知らず、二番は斯く申す半介と知し召されよ、とて其盃を取りて飮みたりければ、皆、憎き振舞よ、と言ひしが、株瀨川1にて一番首を取りぬ。斯て兩軍物別する時、稻葉助之丞は金の切裂の指物にて秀家の軍士の殿し、林は白じなひの指物指して乘り退り殿しけるが、猶も本多忠勝が兵に向つて只一騎輪をかくる有樣、敵有りとも思はざる體なりしを、東照宮御覽じて、天晴不敵者哉。武功に志す者は彼の武者の草摺を戴け、と仰せ有りけり。
  1. 誤植 — 底本「株」。振り仮名「くひせ」から「杭瀨川」の誤植か。