常山紀談本文データベース

目次 › 卷之十九 › e415

○黑田勢天草丸を攻破る事竝黑田睡鷗武畧の事

卷之十九 第11話 · 段落 1 · NDL 1078984 306コマ R

人物地名家(氏)官職日付索引へ

黑田忠之天草丸を攻むる時、本田但馬嚴しく防ぎ支へて、先陣攻入り得ざりしかば、忠之素肌にて進まれけるを、黑田睡鷗、物具恃むに足らぬとは申せども、大軍を下知し給ふ身の甲を著ざれば、狼狽へたりと人の嘲り候べし、と言ひければ、忠之物具取つて肩に懸け、冑をば著ず手拭にて鉢卷し走り出で、我士共年比吾家の恩にみちし奴原、今日は如何にして進まざるや。我此處を一足も引くまじ、とて鎗の鐏を地に差込み、折敷きて進め者共、と下知せらる。雨の如く打出す鐵炮に打竦められ躊躇へり。睡鷗は是を餘所に見て控へ居しかば、忠之、何とて一方を下知せざるや。年老いて老耄したるか、と大音あげ齒嚙して罵られしかども、少しも騷がず。未だ早く候、と靜に言へば、忠之愈怒り罵られしを、弟市正、彼入道は物師にて候。待たせられ候へ、といふ所に睡鷗つと立上り、麾を取りて懸り候へ、といふ。詞の下より軍兵一同に㗢と進みて天草丸に乘入り攻取つたり。後に忠之睡鷗を近附け、軍兵我下知を用ひずして、汝が一言にて忽ち城を攻破りたるは如何なる故ぞ、と問はれしに、總て城攻に四方より押寄せ、先陣犇と攻詰むる時を見計りて、無二無三に進んで手負死人を顧みず乘入り候へば、攻破り候事を得候。四方の味方未だ押寄せず。一方より攻破らんと急ぎ候へば、城中も外の防ぎを捨てて、先嚴しく攻むる方を支へ候もの故、外の持口よりも防ぎ甚だ强く候。其隙に一方より攻入り候時は、容易く擊破り候。早過ぎたる方は却て手後する事常の理に候。臣此處の辨を知りて靜まらせ候へと申せども、殿急がせられ候故、味方に手負討死多かりき、と申しければ、忠之、高政共に大に感ぜられけり。