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○權現樣花女を御使にて台德院樣へ菓子を進ぜられし事

附錄 雨夜燈 第2話 · 段落 1 · NDL 1078984 436コマ L

人物地名家(氏)官職日付索引へ

權現樣駿府に御隱居遊され、大御所樣と申奉る。台德院樣江戶より駿府へ御出でなされ、二の丸に二ヶ月餘御滯留なされ候節、權現樣阿茶の局を召して、將軍には年若き人なり。旅住居二ヶ月になりぬ、夜中徒然なるべし。花を使にして菓子を持たせ、裏道より忍びやかにやれ。もし慰にも成ぬべきなり。我云ひたると聞れなば、隔心あるべし。汝が心得に能計らへ、と仰せられければ、阿茶の局、御心の附たる上意なり、と御請して、花其比十八歲、女中第一の美人なりしを、殊に取繕はせ、下女に菓子をもたせ、初夜の比裏道より密に參らせけり。內々阿茶の局より斯くと申しければ、台德院樣御上下をめし待せ給ふ處に、花參りて御庭の戶を訪れければ、台德院樣御自身戶を明られ、花を上座に直し、菓子を御取り、是は大御所樣より下されたるなるべし、とて御戴きなされ、花早々歸られ候へ、と仰せられ先に御立なされ戶口まで御送りなされければ、花兼てたくみしと違ひて、いらへの詞もなく、歸りて、斯樣々々なり、と申しければ、權現樣聞し召し、將軍は律義第一の人なり。我はしごをかけても及難し、とぞ上意ありける。