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○新太郞樣夏目氏の忠死を御賞歎の事

附錄 雨夜燈 第3話 · 段落 1 · NDL 1078984 437コマ R

人物地名家(氏)官職日付索引へ

三河國箕形原の合戰に、權現樣御負けなされ、濱松をさして御人數崩れ候時、甲州の士大將秋山伯耆下知して、黑鹿毛の馬に乘りて鎗をば持たず、采配を腰にさし度々取つて返す。武者振敵の大將ぞ。權現樣御事追つめて討取れ、とて急に追懸けたり。御馬廻殘り少く討たれければ、權現樣にも御討死の覺悟なされ、御馬を引返されし時、夏目長右衞門、是は御討死の場には候はず。早御退きなされよ、と申して、御馬の口を濱松の方へ引向け、鎗おつとり、御馬のさんづをたゝみかけて叩きければ、御馬かけ出て敵と遠ざかりぬ。長右衞門踏とゞまり、敵の多勢に取り卷かれ、鎗の柄の折るゝ程戰ひて討死しけり。大猷院樣の御時、御悅事ありしに、諸大名出仕にて、德川の御家御繁昌の事樣々物語ありし時、新太郞樣備前少將光政朝臣稍暫くの間御詞もなく御座なされしが、夏目長右衞門箕形原にて、權現樣の御命に代り申さずば、斯樣に御繁榮は御座あるまじき由仰せられしを、大猷院樣聞し召し、德川家の士の節義の心を今更引起したる詞なり。智者の一言とは斯る事なるべし、と大方ならず御悅にてありけるとぞ。