松前伊豆守、
元祿年中京都町奉行勤られし時、
海保友竹といふ畫師參りて、紅梅のよく開きたるを生置れしを見て、御
所司代竝に此方樣ならでは、斯樣の初花見申さず、と申しけるに、
伊豆守兎角の返答なく落淚せられけり。
友竹、如何なる故にやと案じ居たるに、稍あつて、能こそ言はれたれ、誠に左樣なるべし。我等不肖の身にて、かゝる重き役義を仰蒙り威勢あるを知らず、うか〱と心附かざるは大きなる油斷なり。是に附ても大事の役ぞと思へば、氣遣しく落淚したるぞ、といはれしとなり。假初の一言にも斯く心を附けられしは、古の君子の道なるべし。されば此人の仁德、
京都にて後まで申し傳へけるとぞ。