東照宮と
武田の兵と
大天龍にての戰に、
近藤傳次郞手負ひて
渡邊半藏守綱を見かけ、手負ひたるぞ連れて退けよ、と言ふ。心得たり、とて手に提げたる首を投棄てて、
傳次郞を肩に掛け、三里餘引き退きて救けければ、
東照宮聞し召し、味方一騎討たるれば敵千騎の强みと言ふ事あり。味方を救けたるは七度の鎗を合せたるよりも勝れり。今より後鎗
半藏と言ふ可し、と仰あり。後に
半藏人に語りて曰く、
傳次郞を余なればこそ救けたれ。何として退け遂すべき。斯る時は大方救くる體に遇し、刺し殺して棄てらるべし。味方なればとて賴みにはならぬ者よ、と言ひしなり。