十二月四日雪深く、眞田が丸へ加賀の陣も井伊直孝も攻寄せける事、軍令を背きたれば如何すべき、と台德院殿仰せ有りしかば、先伺ひ奉り然るべからん、とて本多正信東照宮の御陣に參りけり。東照宮、如何に今朝は將軍にも悅びに有るべきよ。掃部頭堀際へ押詰め、敵に威を示して味方を勇め立てたるよ、と仰せ有りしかば、急ぎ返りて斯くと申す。頓て御本陣に御出あり。其道筋掃部頭陣を打過ぎさせ給へば、直孝出向ひたるに、睨みて通らせ給ひぬ。孕石備前に斯くと告ぐれば、孕石聞きも敢へず、其如く物に心得ざる大將は、此方よりも屹と睨み返すが然るべく候、といふ。程無く還らせ給ふ時直孝出向ひければ、今朝の軍賞譽の御詞有りて打過ぎさせ給ふを、孕石聞きて、合點ゆきたらんには其筈の事なり、と言ひけり。