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○道雪仁愛深かりし事

卷之八 第4話 · 段落 1 · NDL 1078984 147コマ R

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道雪の側に仕ふる女に心を通はす者有りけるを、知らぬ體にてぞ有りける。是を知る者有りて、或夜物語の時申しけるは、東國の大將に誰とは知らず候。寵愛の女に密に情を通はす者の候ひしを誅せられき、と有らぬ事を態と言ひて道雪の答を試みけり。道雪打笑ひ、若き者の色に迷ひたるは、必しも誅せずとも有りなん。人の上に居て君と仰がれんには、假初の事に人を殺せば人背く因よ。國の大法を犯したるに異なり、とぞ語られける。彼者傳へ聞きて心に慙ぢ、又道雪の仁愛に感ず。其後薩摩の軍鎧が嶽の城を攻むる時、道雪城を出て戰ひしに、大軍押懸り危かりしに、彼者大音上げ、亂れける味方を恥しめて散々に戰ひける。其間に道雪城近く引取りたるに、敵猶嚴しく進み來て城門を閉て敢ぬ計なりければ、彼の者又取つて返し、武士の討死すべき所は爰にあり。各是にて討死せば城をば敵に奪はれじ。返せや人々、と言ふ儘に鎗を橫たへ折敷きければ、返合する者三人あり。面も振らず戰ひて討死しける間に城門を閉ぢたりける。