同役眞田父子の敵の疲勞たる時を計り、部卒を數多城外に出して早稻田に赴かしめ、稻穗を苅り取らせしに、寄手の面々之を見て、偖は城中には糧食盡きぬると覺えたり。いで追駈けて擊取れ、と云ふ儘に、大久保、本多一萬餘騎にて咄と喚きて押寄せけるに、此時城兵は稻を苅取り束になして脊負はんとする所なれば、追駈け來りし者道を塞ぎて聲々に呼はりけるは、不敵なる哉城兵共、此大軍を引受けて稻を苅らんとは不覺なり、と云ふ儘に切つて掛れば、部卒何かは以て堪るべき、苅りたる稻を打捨てて、我れ先きにと城中へ逃入りける。寄手は大に笑ひ、偖々迂濶なる城方の擧動かな。拙くも此の有樣、と口々に罵りながら、打捨てたる稻束を本陣に持歸りける。斯くて夜に入り、人々眠に就かんとする時、頻に焰硝の匂なしければ、這は不審と東西尋ね廻りしに、這はそも如何に、取歸りし稻束より炎燃出して陣々に移りければ、偖は又眞田が謀略に當りしか、と急に狼狽騷ぎ出しける所に、城中より三方の城門を押開きて攻寄せければ、關東勢戰はんとする者無く、皆々小諸を指して敗走りける。是れ豫て幸村が計ひにて、稻束の中に密に焰硝を入れ置きたるなり。嗚呼妙智の所爲なる哉。