○栗山利安儉約の事附日根野備中守黑田家に銀を返す事
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日根野備中守朝鮮に使として往く時、黑田如水に銀を借り、歸りて後如水の許に行きしに、如水近習の士に、先に人の贈りし鯛を三つにして、その骨を烹て饗し候へ、と言ひしかば、吝嗇の甚しき事よ、と思ひ居たり。頓て肴を出し酒宴有りし後、彼借りたる銀百枚取出し返せしに、如水、始より返し給はらんとの心にて貸し候はず。異國に渡らるゝにより賴まれしかば送り參らせしなり、とて受取らずして止ぬ。栗山も如水の風に習ひたるにや、君臣共に賴母しき事ぞかし。栗山の戒をもて惣て世の有樣を見るに、士と言はるゝ人の體こそ無下に口惜しけれ。多くは美衣を著飾り明暮酒宴して、馬具武具樣の物如何に有るやらんも知らず。多くは商家に典當し、或は茶の湯よとて古び缺けたる器の何の用も無き物に數金を費し、博奕とてあらぬ戲に夜を明し、斯ばかり無二に言ひ交しけん人の黃金を奪ひて、其人の赤躶になるも顧みず。是はそも盜賊の心にも劣り果てたる事なるべし。扨物語するを聞けば、多くは女色の戲れごとのみにて、禮義廉恥は露ばかりも知らず。又或は儉約にことよせて利倍の事には錐刀の末をも爭ひ、人を欺きて己が得有らん事を願ひ、或は奢侈に耽りて用度に苦み、商人に向つて首を垂れ、其人の恩を得て金銀を借り、是を恥ともせず。門を出づれば從者數多召具し、我は門地の云々なりとて、途中にて人を嚴しく追拂はしめ、家人を飢ゑしめて購ひたる價を遣らず。大國の君も亦大かた斯の如し。不仁不義の行を爲して、世の人の誹笑も知らず。世界は皆斯くなるよと思へば、風俗の衰へ無下に口惜き事なり。