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○加藤忠廣物語竝飯田覺兵衞が事

卷之十八 第15話 · 段落 1 · NDL 1078984 289コマ L

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加藤肥後守忠廣或夜物語に、吾は大力あれかしと思ふなり。重き甲二領重ねて軍に出づれば、恐るゝ事有らじ、と云はれしを、飯田覺兵衞熟と聞き、先殿物具一領にて、數十度の戰に終に手負はせ候はず。朝鮮に攻入りて鬼將軍と異國の人も惶れ候。死生存亡は天命にて人力の及ぶべきに非ずと言へ共、能く戰へば生き、惡く戰へば死ぬると申す事も候。國中の民を撫育し、諸士よく懷き從ふ時は、席上にて勝敗の理を論じ、軍兵を下知して進退自然に整ひ候へば、三軍の著たる物具は皆大將の一身に重ね著たると同じ事に候。誰か鋒を爭はん。臣は力を好ませ給ふ事然るべしとも存じ候はず、と申して退出しける時、先殿には如何で斯くまで劣り給へる、とて聲を上げて泣きけるとぞ。此覺兵衞は淸正の時武功の大將なり。初は角といふ字なりしに、太閤覺の字に書替へさせられしとぞ。覺兵衞云ひけるは、我一生主計頭に騙されたり。初めて軍に出でて功名しける時、朋輩多く鐵炮に中りて死しけり。危き事よ。早是までにて武士の仕はすまじきと思ひたるに、歸るや否や淸正時をすかさず、今日の働神妙言はん方なし、とて刀を賜りき。斯の如く每度其場を去りては後悔すれ共、主計頭其時を移さず陣羽織或は感狀を與へ、人々も皆羨みて褒め立てたりし故、其に引かれて止む事を得ず麾を取り、士大將と言はれしは、主計頭に騙されて本意を失ひたるなり、と忠廣沒落の後京に引籠り、再仕を求めずして有りける時、語りけるとかや。