井伊家の赤き物具は、
直政の時より始れり。
甲斐の武田家の士大將
山縣三郞兵衞昌景が一陣の軍兵、皆一色に赤かりしを、
東照宮御覽じて好ませ給ひ、
直政に仰せられて、甲冑を始め旗指物鞍鐙鞭にいたるまで、皆一色に赤色なり。夫より後も斯くの如くなりし故、
井伊の家に新に奉公する士有れば、武具奉行軍令を見せて、物具皆新に赤色にして、百石に二十兩具足櫃に納め、奉行の士受取りて城中の庫に入置き、其價は祿の內より返しけり。此故に
井伊家の武備缺くる事なし。若去つて他國に行く士有れば、奉行の士武具を返し與へけるとなり。
井伊家の軍令とて、赤色の武具の事錄せる書も、今世に傳りけり。